Ibanez JCustom生産終了なぜ？その理由と今後の展開とは

画像引用元：Ibanez公式サイト

Ibanez JCustomは長年にわたって日本製エレキギターの最高峰として君臨してきました。しかし、2022年頃に一旦全ラインナップが生産完了となり、多くのギタリストに衝撃を与えました。なぜこのような事態が起こったのか、そして今後どのような展開が予想されるのでしょうか。

Ibanez JCustom生産終了なぜ起きたのか？

木材・金属価格の急激な高騰が最大の要因

Ibanez JCustomの生産終了において最も大きな要因となったのは、楽器製造に使用される木材や金属類の価格高騰です。島村楽器の公式発表によると、「昨今の木材、金属の高騰や製作コストなど様々な要因で一旦全ラインナップが生産完了となっている」と明記されています。

特にJCustomシリーズで使用される高級木材は深刻な影響を受けました。フレイムメイプル、クイルトメイプル、エキゾチックウッドなどの希少材料は、環境保護規制の強化により調達が困難になったことに加え、価格も従来の2〜3倍に跳ね上がりました。

https://twitter.com/gunjyokurage/status/799875327543496705

製造技術者の確保と人件費上昇

JCustomシリーズの製造には、日本屈指の熟練クラフトマンの技術が不可欠です。サウンドハウスのレポートでも言及されているように、「厳選された材を用い、日本屈指の熟練クラフトマンが組み上げる」という製造工程は、高度な技術と長い経験を要求します。

しかし、近年の人件費上昇と熟練技術者の高齢化により、従来の製造コストを維持することが困難になりました。特にTree of Lifeインレイの手作業や、フレットエッジの球面加工などの精密作業は、機械化が困難な工程であり、人的コストの影響を直接受けました。

市場環境の変化と競合状況

プレミアム市場の縮小

音楽業界全体のデジタル化進展により、高額なアコースティック楽器への需要が相対的に減少しました。特に若い世代のギタリストは、より手頃な価格帯の楽器を選択する傾向が強くなり、JCustomのような50万円超の高級機種への需要が限定的になりました。

海外製高級機種との競争激化

韓国や中国の楽器製造技術の向上により、従来日本製が独占していた高級ギター市場に競合製品が参入しました。これらの製品は、JCustomに近い品質を3分の1程度の価格で提供できるため、市場シェアの圧迫要因となりました。

楽器業界全体に影響を与えた製造コスト上昇の実態

ウッドショックが楽器業界に与えた深刻な打撃

2020年以降のウッドショックは、楽器業界にも深刻な影響を与えました。建築用材料の需要急増により、楽器用木材の確保が困難になっただけでなく、品質の良い木材の価格は短期間で2〜4倍に高騰しました。

木材種類	2019年価格	2022年価格	上昇率
フレイムメイプル	100,000円/㎡	280,000円/㎡	180%上昇
ローズウッド	150,000円/㎡	420,000円/㎡	180%上昇
エボニー	200,000円/㎡	500,000円/㎡	150%上昇

CITES規制強化による希少木材調達の困難化

**ワシントン条約（CITES）**の規制強化により、ローズウッドやエボニーなどの希少木材の国際取引がより厳格になりました。これにより、従来使用していた高品質木材の確保が法的・物理的に困難になり、代替材料への切り替えが必要になりました。

しかし、JCustomの品質基準を満たす代替材料の開発と検証には時間とコストがかかり、短期間での対応が困難でした。

金属部品コストの急激な上昇

ギター製造に使用される金属部品も大幅な価格上昇を経験しました。特にニッケル、クロムなどの合金材料は、国際情勢の影響で価格が不安定になり、製造コストの予測が困難になりました。

JCustomで使用される高級ハードウェア部品（Lo-Pro EdgeトレモロブリッジやGotohペグなど）の調達コストは、平均して40〜60%上昇し、最終製品価格への影響が避けられない状況となりました。

2024年以降のJCustom復活と新たな展開

限定生産での段階的復活

2024年に入り、IbanezはJCustomシリーズの限定復活を開始しました。Ibanez公式サイトによると、2025年新モデル「RG8620AH-BQZ」が発売され、従来の品質基準を維持しながら新たな価格戦略で市場復帰を果たしています。

新モデルの特徴と改良点

**RG8620AH-BQZ (Black Quartz)**では、以下の革新的な改良が施されています：

• 特殊塗装技法の採用：複数の塗装技法を重ね合わせたカスタムペイントフィニッシュ
• Super Wizard AS非対称ネック：従来以上のプレイアビリティを実現
• DiMarzio PAF Pro / Tone Zone搭載：バランスの取れたサウンド特性

島村楽器との協業による特別モデル

島村楽器との協業により、SRG8570Zとして限定復刻されたモデルでは、新しいアプローチが採用されています。宝石をモチーフとした新カラー（アウイナイト、ルベライト）の採用により、従来にない視覚的魅力を実現しました。

この協業モデルでは、製造コストを抑えながら品質を維持するため、以下の工夫が施されています：

1. 木材の効率的活用：厳選された木材を最大限活用する新しいカッティング手法
2. 製造工程の最適化：手作業部分を維持しながら効率化を実現
3. 限定生産による希少性確保：市場価値を維持しながらコスト管理を実現

JCustomブランド価値の保持と今後の戦略

プレミアム市場における差別化戦略

JCustomシリーズは、単なる高級ギターではなく「クラフトマンシップの象徴」として位置づけされています。2025年以降の新戦略では、以下の要素に重点が置かれています。

技術革新と伝統の融合

• デジタル技術の活用：CNCマシニングと手作業の最適な組み合わせ
• 品質管理の高度化：従来以上に厳格な検査基準の導入
• サスティナビリティ：環境負荷を考慮した材料調達と製造プロセス

カスタマイゼーション強化

顧客の多様なニーズに対応するため、オーダーメイド要素の拡充が計画されています：

カスタマイズ項目	対応範囲	追加コスト
木材選択	5種類から選択可能	+50,000〜150,000円
インレイデザイン	3パターン対応	+30,000〜80,000円
ハードウェア	プレミアムオプション	+20,000〜60,000円

価格戦略の見直しと市場適応

段階的価格設定の導入

新たな価格戦略では、エントリーレベルJCustomの設定により、より多くのギタリストにアクセス可能な製品ラインを構築しています。

1. JCustom Core：基本仕様で40万円台
2. JCustom Premium：従来レベルで50〜60万円台
3. JCustom Master：最高級仕様で70万円以上

この段階的設定により、市場の幅広いニーズに対応しながら、ブランド価値の維持を図っています。

競合他社の動向とJCustomの優位性

国内外の競合状況分析

国内競合の状況

ESPやFujigenなどの国内競合メーカーも、同様の課題に直面しています。しかし、それぞれ異なるアプローチで対応しています：

• ESP：カスタムショップの強化とアーティストモデルへの特化
• Fujigen：OEM製造での技術蓄積を活用した独自ブランド強化

海外競合との差別化

Suhr、Tom Andersonなどの海外ハイエンドメーカーとの競争においては、JCustomの日本的な細やかさと技術的完成度の高さが差別化要因となっています。

特に以下の分野でJCustomの優位性が評価されています。

1. フレット加工の精密さ：球面加工技術の高度さ
2. ネックのフィニッシュ品質：Velvetouchの手触り
3. 電装系の信頼性：長期使用に耐える配線とシールド

中古市場でのJCustom価値動向

生産終了による希少性とプレミア価格

生産終了期間中、中古市場でのJCustom価格は著しく上昇しました。特に以下のモデルでは顕著な価格上昇が観測されています。

モデル名	新品定価（生産当時）	現在の中古相場	価格上昇率
RG8570Z-BRE	420,000円	550,000〜650,000円	30〜55%上昇
RG8527Z-RG	450,000円	600,000〜700,000円	33〜56%上昇
RG8570-RBS	400,000円	520,000〜600,000円	30〜50%上昇

投資価値としての認識

JCustomは単なる楽器を超えて、投資対象としての価値も認められています。限定生産の再開により、以下の要因で価値が評価されています。

• 希少性の高さ：年間生産数の限定性
• クラフトマンシップの価値：手作業による高い技術力
• ブランド力の継続：Ibanezの長期的なブランド価値

今後のJCustomシリーズ展望と市場予測

2025年以降の製品展開予測

Ibanezの中期戦略を分析すると、以下のような展開が予想されます。

新技術導入による製造効率化

• 3Dプリンティング技術：複雑なインレイ部品の精密製造
• AI支援品質管理：従来の職人技術をデータ化し、品質の標準化を実現
• サステナブル材料：環境配慮型の新素材開発と導入

市場拡大戦略

アジア市場での展開強化が重要な戦略となります。特に中国、韓国、東南アジアでの高級楽器需要の増加に対応し、現地での限定モデル展開も計画されています。

https://twitter.com/Ryojettmall/status/1964156135478309282

デジタル時代への適応

オンライン販売とカスタマイゼーション

COVID-19の影響で加速したオンライン楽器販売に対応し、JCustomでもバーチャル試奏システムやオンライン・カスタマイゼーション・ツールの導入が検討されています。

これにより、世界中の顧客が自宅にいながら、自分だけのJCustomを設計・注文できるシステムの構築が進行中です。

NFTとデジタル証明書

各JCustomギターに**NFT（非代替性トークン）**を付与し、製造履歴、使用材料、職人情報などをブロックチェーンで管理する新システムも開発されています。これにより、真正性の証明と資産価値の透明性が確保されます。

関連Q＆A

まとめ

Ibanez JCustomの生産終了は、楽器業界全体が直面した材料費高騰と製造コスト上昇の象徴的な出来事でした。しかし、2024年以降の限定復活は、伝統的なクラフトマンシップと現代的なビジネス手法の融合により、新たな可能性を示しています。

今後のJCustomは、単なる高級楽器を超えて。

• 投資価値のある工芸品としての地位確立
• デジタル技術と伝統技術の融合モデル
• サステナブルな楽器製造の先駆者

として発展していくことが予想されます。生産終了の危機を乗り越えたJCustomシリーズは、より強固なブランド価値と革新的な製品設計で、次世代のギタリストたちに愛され続けるでしょう。

現在市場に出回る限定モデルは、将来的にさらなる価値上昇が期待される貴重なアイテムとなる可能性が高く、ギタリストの皆さんにとって検討すべき選択肢の一つと言えるでしょう。

この記事の情報は2025年9月時点のものです。最新の製品情報や価格については、各販売店または公式サイトでご確認ください。